あくび/達富 洋二

二人の息子が田植えから帰ってきた日。ベランダの水槽に蛙が二匹浮いていた。黄緑とこげ茶。二匹とも黒い目に愛嬌がある。◆手と呼ぶのか前脚というのか分からないがぶらんとさせている。力を抜いた脚も伸ばして浮いている。◆水槽の底からのぶくぶくした泡に一日中揺られている。こんなはずじゃなかったと思っているのだろうか。気に入っているのだろうか。◆週明けの昼。庭の紫陽花の葉っぱが水面に落としてあった。青い若い葉っぱは蛙の遠くで揺れている。二匹は相変わらずだらりと浮かんでいる。◆火曜日の夕方。缶ビールを片手にベランダに座るとこげ茶と目が合った。息子が浮かべたかまぼこ板にじっと座っている。泡に動かされて板ごとくるりと回った。二匹並んだ蛙のうしろ姿なんて見たことなかったかも。◆水曜日の朝。息子たちは相談して板の上に金魚の餌を四つ載せて学校に出掛けた。八時半。朝刊を読んでいる僕の横で黄緑が大きなあくびをした。