いつの間にか通り過ぎて/達富 洋二

僕のことを知らない人が僕のことを語っている。そんなのいやだ。僕は僕なりに生きているんだから。◆僕のことを知らない人が僕はこんな奴だと決めつける。そんなのいやだ。僕は今日まで僕なりに生きてきたんだから。◆そんな思いでこぶしを握りしめていた学生時代。唇をかみしめていたあの昼下がり。受話器に向かって叫んでいた雨の夜。僕は間違いなく若さの中にいた。◆あれから二十年。僕は河原町の焼鳥屋で思い出を懐かしんでる。若さを肴に二杯目のビールの泡を飲み干している。あの頃より年はとった。◆白いシャツ。裸足。帰りのバス。深夜の吉野家。自動販売機。自転車。スポーツタオル。若いってやさしい。若いって激しい。若いって危うい。だけど若すぎるって美しい。◆僕のことを知らない人が前にいる。僕に語りかけてくる。お前は何歳だと聞いてくる。僕は一度つばを飲み込んでにっこり言ってやる。あなたよりは若くて元気ですよって。