いつも遠くから/達富 洋二

今年の八月六日の午前八時十五分は家族で静かに迎えた。手を合わせている僕の隣にいる十二歳は何を思っているのだろう。◆被爆者の平均年齢が七十三歳を越えたらしい。六十一年前の小学六年生がその平均の七十三歳になっていることになる。◆夏の高校野球の開会式前。多くの選手が集まる控えの場所の中で広島県代表の選手が一列に立って黙祷をしている。広島の選手だけが祈っている。その様子を映しているテレビカメラに他県の選手が微笑んでいる。今は笑う時じゃない。僕の拳に爪が突き刺さる。◆僕に何ができるとも思っていない。だけどこの憤りを沈めることもできない。四十を越えた僕があの場所にいたなら。生き続けられていたなら一〇〇歳を越えている。◆僕がこの世に生を受けたのは戦後二〇年も経たない夏。赤ん坊の僕には戦後の傷みがしみこんでいたかもしれない。僕は戦争を知らない子どもではないかもしれない。