いとしのエリー/達富 洋二

飼っていた犬が逝った。十四年と数ヶ月。お医者は長生きしたほうだと云ったけれど命は比べるものじゃない。いつまでもそばにいるのがあたりまえなんだ。◆父がつけた名前はエリ。僕は好きな歌の題名をもじってエリーと呼んだ。エリーは小さな小さな命。◆遅くに帰る僕を玄関で待ってくれているエリー。何よりも僕の鞄と靴下が好きなエリー。フライドチキンとするめが好物のエリー。ベッドにもっぐては僕の脚にくっついて寝息立てるエリー。◆すねることが上手で甘えることが得意。人を迎えるのが好き。親父のことがいちばん好きなくせに親父が抱こうとすると客の方へ行く。体調を気にしてくれる母には従順なくせに上目遣いで様子をうかがいその目を盗んでするめをくれる僕のこともちゃんと見ている。◆エリーはもういない。去年から聞こえはじめた鼾ももう聞こえない。◆動物たちの恐ろしい夢のなかに/川崎洋/犬も/馬も/夢をみるらしい/動物たちの/恐ろしい夢のなかに/人間がいませんように◆エリーの夢のなかに僕や父や母がいませんように。あいつが怖い夢をみていませんように。