おばさんのかけひき/達富 洋二

庭の沈丁花のつぼみがふくらんできた。去年の十一月の天神さんの縁日で買ってきたものだ。植木屋との値段の交渉は楽しい。金柑の木もつけるから二千円にしておくとのこと。わたしは家に蜜柑が育っているのでおまけしてくれるのなら金木犀にしてくれと頼んだ。◆「金木犀やったら二千三百円やな。」別に三百円がないわけではないがここは譲れない。互いに笑っているのに真剣勝負。そばにいたお客さんがその金柑を買っていく。そら見たことか、すました目がわたしを刺す。◆「大将、買うとき。二千二百円や。」さっきまでは、兄ちゃんだったのに、大将に格上げだ。しかも二千二百円。◆「しょうがないな。もうとくわ。枝折らんといてや。」小銭をさがしているとき奥の方でかたい葉を揺らしている金木犀が光っているように見えた。プロの目はそれを見逃すはずがない。◆「兄ちゃん、金ちゃんもつけて三千円や。」金木犀が金ちゃんと呼ばれている。ひとつずつ足し算したら、案外、損をしているかもしれない。納得したようなしないような。それでも秋になった頃の花の香りを思い浮かべながら満足の天神さんの帰り道。