じいさんが教えてくれた/達富 洋二

京都の夏。なすびが美味い。豆腐が美味い。鰹節が美味い。鱧が美味い。錦の市場が輝くように僕を誘う。日曜日。家内と二往復した。◆賀茂なすはずしりと重いめのが好きだ。へたをめくったときに見える黄緑と濃い紫との差がうまさを見分けるこつだと小学生の頃にじいさんに教えてもらった。◆豆腐が水の中を泳いでいる。真っ赤な掌で逃げる豆腐をつかまえる。ゆうらり浮き上がってくる豆腐からしたたり落ちる水。この滴が少ない方が美味い。大丸の帰りに道にじいさんが自慢気に言っていた。◆朝一番の海の匂いがする。鰹を削ったときにこの匂いがするものはだしにしても美味い。くくくと鼻に引っかかる。菜っぱと炊いたんが好きだったじいさんのことばだ。◆鱧は身が立つものに限る。とんと身をたたいたときに跳ね返る強さがほしい。指でつまんだときに押し返してくる強さがほしい。じいさんから習ったことを今僕は家内にしゃべっている。とにかく夏の京都は美味い。