せがれと昼の銭湯/達富洋二

雨の午後に銭湯に行った。中二のせがれは道後温泉の赤いタオルを首に巻いている。小五は長崎くんちの手ぬぐいを振り回している。◆ああっ。熱めの深い湯ぶね。伸ばした脚が白いのは天窓からの昼の光のせい。◆泡の出る湯ぶねに中二が身をまかせている。期末試験のことも今は忘れている。◆小五は並んでいる鏡の広告の見比べている。「お父さん。あの鏡のところで洗おう。」何が気に入ったのか空色のマークのタクシー会社の広告を指さしている。◆こっちのは英語ばかりでよく分からん。あれはごちゃごちゃしすぎ。この黒と白だけのは銭湯には合ってない。タクシーの前に座ってシャンプーをはじめた。◆それならと中二はふたつ隣の自分の名前の漢字のひとつが書かれた居酒屋の前に座る。「なんか自分専用の場所みたい。」◆じゃあお父さんも洗おうと二人の間は薬局の文字。飲み過ぎだの食べ過ぎだの生活習慣だの。風呂上がりのビールの味も変わってしまいそうだ。