それでも野球がしたくって/達富 洋二

少年野球を見たくて柊野の広場に行きました。懐かしい音がします。◆選手の数だけ大人がいるのかと思えばそうではないようです。至れり尽くせりの野球ごっこではありません。◆ユニホームが歩いているのかと思ってしまうくらいの背番号3もお弁当を空にすると自分でスパイクの紐をしめて走っていきます。◆親でも先生でもない大人に怒鳴られています。難しいルールや横文字はどこまで通じているのでしょう。うなずくたびにヘルメットが上下します。「結果を出せ!」にうなずく子どもは結果とは何か分かっていないようです。◆二階から打った方がいいようなボールに手を出して叱られます。カバーが遅いと頭をはたかれます。打つも見送るも守るもベンチの指示。◆楽しいのかなあと僕は三本目のサッポロビール。キンという音を聞いたのはたった一度だけの一塁線のファールボール。◆家で空のお弁当箱を放り出し、背番号3を脱いだあとは、いつのまにかホームランになったあのファールの打ち方を自慢気に家族に話すのでしょう。