先週。はじめて担任した学級の二人と会った。小さな島の小さな小学校の五年生だった。京都から赴任した僕は島の教員住宅に住んだ。教会の横の赤い屋根のその住宅は村のどこからでも見えた。帰ってくると机の上に刺身と焼き魚が置いてある。朝はいつの間にか学級の子どもが横に寝ている。◆何もかもが子どもと一緒だった。風に吹かれて走った。夕日の中で歌った。月の夜はハーモニカを吹きながら夜中まで海辺にいた。家庭訪問で教え子の父親と取っ組み合いをして居間のガラスを割り母親に叱られた。◆加世子の母親が逝った夜。僕は朝まではなえの父親と飲んだ。朝。そこから学校に行った。誰も何も語らない。僕らはいつも一緒だった。◆二十七歳になった加世子が言った。「センセーヤ ナーンモ カワットランネ」すっかり大人になった加世子も化粧をしている以外はあのときのままだ。はなえが言った。「センセーヤ ワタシンセナカニ ツバサバ ツケテクレタケン」そのえくぼを覚えてる。◆あれから十七年。その石造りの小学校は今はもうない。