へんねし/達富 洋二

あかんあかん今この子はへんねしおこしてるさかい。部屋の片隅で座布団の角に付いている紐を触りながら僕はそんな声を背中で聞いていた。へんねし。幼児期の僕を見事に言い当てた言葉だ。◆こんなことがあった。裏のおとふやさんにおあげを買いに行くおつかいだった。

おあげいちまい。ちょっと待ってや。袋入れるさかいな。おばちゃんがおあげをポリ袋がくしゃくしゃになってセットされているトンネルみたいな所に通さはる。トンネルから出てきたらおあげはちゃんとパックされてる。不思議やなとおもて下からのぞいてたらおばちゃんがおからくれた。おかあさんといっしょにくるときもらうのよりもっと大きいおからや。
こんなんもろた。おとうさんもびっくりしはるやろな。はよ帰って見せな。はよ見せなあかん。
ただいま。おからもうた。なあなあおから。おからくれはったで。

何回ゆうてもみんなお兄ちゃんが学校でもろてきた朝顔の話ばっかりや。おあげとおからを流しにおいてできるだけみんなが見えるところで丸くなる。◆どうしたん。はよこっちきよし。ごはんさめるで。◆そんなことでへんねしはなおらへん。一度おこしたへんねしは自分との戦いや。お兄ちゃんが二階に行かはらななおらへん。