十一号館の玄関先に桔梗が咲いている。見過ごしてしまいそうだけど一生懸命に咲いている姿はとってもけなげ。足をとめて触ってみたくなっちゃう。◆誰には気づいてもらっていて誰とは目が合うか桔梗たちは知っているよう。僕の足音を聞くとまだ僕は五号館の前辺りなのにすっと背筋を伸ばしはじめる。僕は通り過ぎるとき「よおっ」ってひと声。◆きのう桔梗たちがああだこうだと盛り上がっているのを僕は目撃。僕に気づいていない桔梗たちはゆったりとしてる。欠伸の音までしそう。その姿がかわいくてたまらない。愛おしくて持って帰りたいくらい。◆まだ僕に気づいていない。本当。僕はもう桔梗たちの目の前。足音どころか息がかかりそう。おいおいって感じ。あまりに無防備な桔梗たちに僕の方が慌ててしまう。◆そうそう空っぽの教室ってきっとこんなふうに油断してるはず。そういうのってすごく魅力的。声をかけたくなる。誰もいないと思ってるのかい。ちがうちがうぼくはさっきからずっとここにいるんだって。