タクシードライバー/達富 洋二

桂大橋までタクシーに乗った。千本北大路でうまく空車が見つかった。◆このごろは目的地までの道順をたずねてくれるドライバーが増えたが僕はいつもお任せだ。このオレンジと白のドライバーは違った。◆何もたずねず、WBCの話ばかりする。だけど。桂大橋まで信号に止まったのは一度きりだ。料金もいつもより三百円ほど安い。◆そう言えば道中こんな話をした。「イチローに教えられます。」「野球とどう関係がありますか。」「プロです。相手を喜ばさなあきません。」個人的には呼べないらしく個人の電話番号は教えてもらえなかったが運転手さんの名前はしっかり記憶した。◆帰りも大学までタクシーに乗った。桂川沿いの住宅地でたまたま見つけた黒い中型。手を挙げている僕を見つけた笑顔は夕暮のフロントガラス越しに穏やかだった。◆「四十九年乗っているんです。」「プロの根性はたいしたもんでしょう。」「いえいえ、ですが、道がこっちを走ってくれって、光って見えるんですよ。誘ってくれてるんですかね。」◆思いの外多かったお釣りと一緒にもらったタクシーカード。予約専用の電話番号は僕の携帯電話にしっかり登録してある。もちろん電話番号なしの運転手さんの名前だけも登録済みだ。