一番年上の友人/達富 洋二

この歩道橋のこの場所が好きなんですよ。通天閣がこちらを見ていますから。(毎日見たはるんですか。)ええ見ています。雨の日はいいですよ。通天閣はぬれても平気ですから。(そんなに見ていたら通天閣が恥ずかしがりませんか。)いやあ立派なものですよ通天閣は。(通天閣が油断をする時もあるでしょう。)いっこうに動きません。◆あの町が好きなんですよ。昔は芝居小屋と映画館でにぎわっていました。ラジウム温泉もありました。今ねらっているアパートがあるんです。何とかそこに住みたいと思っているのですがちょっとの差で先に決めた人がいるんです。(ほかにもありませんか。よく似た物件が。)もう少し待ってみますよ。明日電話してみてもいいですね。そのアパートの名前が生まれた土地の名前なんですよ。土地の名前に「荘」をつけただけなんです。◆以前は阿倍野筋よりも西に住んでいたんです。揺れるすすきの横にあるアパートでした。二年間です。それからは東に住むようになりました。そろそろ西側に住みたくなりました。生まれたところに戻るというか一緒になるというのか。◆通天閣が力をもっているのではありませんよ。新世界が力強いのです。新世界がぐっと魅力なのです。みんなで作り上げている町なんです。ただそれだけなんです。わたしはみんなの中で生きていたいのでしょう。◆西と東とを四角につなぐ天王寺駅前の歩道橋の上。八十一歳の友人が通天閣と語っている。僕はその横でうんうんとうなずいている。◆清原久元先生は今はもう居ない。二年後の六月四日。清原先生は通天閣よりもずっと高いところにいってしまった。