二上山、赤く/達富 洋二

十年前。あんまり夕日が赤いので二上山のふもとを歩いてみた。◆當麻寺の造り酒屋の脇を通り、なだらかな坂道をゆったり歩く。どんぐりのいっぱい入った上着を着た息子がぼくの手からするりとかけだした。踊るように跳ねるたびにどんぐりが飛び出して転がっていく。電信柱を二本分走ってはこちらを見ながら待っている。両手を振っている影法師に届きそうと思えば、またかけていく。◆近鉄線の踏切がカンカンと鳴る。電車窓から漏れる白い明かりを線のように残して六輌の箱が西の空に消えていく。ため池の鮒がポチャンと音を立て、背びれの形を映しながら沈んでいく。二上山の赤が水面で三角に揺れる。かさかさの小さな両手で僕の髪をつかみながら肩車の上で息子が空を見ている。◆あんまり夕日が赤いので僕らはひとつになって、いつまでもいつまでも山を見ていた。