冬のみかん/達富 洋二

庭のみかんが色づいてきた。膝くらいの丈の小さな木を買ってきてからもう八年ほどになる。引っ越しのたびに連れ回しているせいか花を咲かせることはあっても実をつけることはなかった。◆今年の春には二十ほどの花を咲かせた。今年はいけるかもしれない。そんなことも忘れかけた夏。打ち水のあと、葉っぱについた水滴とまちがいそうな実を見つけた。◆じゅず玉ほどの緑の粒。強い西日には耐えられそうにない。干からびてしまう。雨が続くと溶けて流れそうだ。気になる。◆空からの蝶と近所の坊主たちが天敵だ。出かけにはしなった枝を葉の間に押し込んで隠すようになった。◆日曜の朝、実を撫でていると散歩途中のご婦人に何の実かとたずねられた。はて。夏みかんとばかり思っていたが。◆はっさくか、だいだいか、伊予柑か。調べるのも無粋。聞くのは癪。喰って確かめるしかない。いつになったら食べ頃か。鳥に聞くか坊主頭にたずねるか。十四ある実を指で数えながら未だ思案中。