敦子さんが逝った。胸にできた悪いものがひろがったらしい。夏の終わりには一緒に夕立の雨宿りをしたのに。知らない間に躰を病み知らない間に逝ってしまった。◆幼なじみじゃない。学友でもない。倅の友達の母親で家内の友達だ。だけど父親同士も仲良くなった。旦那どうしが語り合った。敦子さんはいつも焚き火を見ながら僕たちの話を聴いていてくれた。◆滑れないくせに子どもとリフトを乗り継いでいく。右に左に穴を開けていく黄色いウエアを忘れない。息子が最後の一口を食べきるまでお皿を重ねないまなざしを忘れない。◆大きな椅子に身をあずけるようにしながらひざを抱えてカップを持つ。「青空の下の紅茶が一番ね。」歌うような声。二人の子どもの声を追う瞳。◆今年は富良野だよ。パウダーはこけても痛くないから頂上まで行こう。「達富さんのそんなことばにはだまされないから。」◆ねえ、北海道じゃなくてもいいからもう一度紅茶を飲みにおいでよ。