天神さんの帰り道/達富 洋二

二十五日は北野の天神さんの縁日です。子どもの頃からその日が楽しみでした。◆おじいちゃんからもらった百円玉二枚のお小遣いをポケットに入れて参道を歩きます。普段は高い高い天神さんの森が小さく見えます。何を買おうか迷いながら歩くことを楽しんでいました。◆スマートボールは五十円。ソースの匂いがたまらない串カツは二十円。薄い紙を伝わるたいやきの熱さは今でも覚えています。迷いながら何度も往復したものです。◆色とりどりのどんぐり飴は宝石のようです。赤い電球に照らされるせいか七味唐辛子までが美味しそうに見えます。歩きながら食べることが許される月一回の特別な日です。◆陽が落ちてからの方が活気づく古本屋。骨董屋との最後の交渉に熱が入るお客の声。二百円を使い切った帰り道。石灯籠の揺れる灯の明るさを見るとはしゃぎすぎたかなと感じます。◆上七軒のお餅屋さんが暖簾と床几を片づけます。あわてて小走り。こぼれて足を伝う金魚すくいの水の冷たさに秋の日の暮れを感じたものです。