天神さん/達富 洋二

まっすぐにのぼる煙を見ると年の暮れを感じてしまいます。不思議なことです。夏の夕暮れ。畑のそばの煙を見ても年の暮れを思ってしまうのです。◆北野の天神さんでよく遊んでいました。「お腹がすいて北野(来た)の天神さん」こんな遊びことばもいつの間にか覚えていました。東門の近くの焼き餅やさんで端をもらって「おっちゃんおおきに」って言ってました。◆秋のある日。近所のおばあちゃんやカメラをもった大人たちが集まってきた日がありました。向こうから祝詞が聞こえてきます。石を叩く音がします。そして煙が一本秋の空にのぼります。◆一年間に奉納された絵馬を焼納する神事だと知ったのは中学になってからのことです。何万枚もの絵馬が注連縄の中の青竹と一緒に焚きあげられていくのは凛としながらも悲しく見えました。◆おばあちゃんたちは煙に手を合わせ無病息災を祈ります。受験生たちは年明けの大願成就を誓います。合わせた両手の中に焼き餅を隠した僕は初詣の練習をしているのかなと思っていました。