天窓/達富 洋二

昼の銭湯。体を横たえながら入る風呂が気に入っています。細かい泡が全身を包みお湯の流れが体を温めます。頭があたる枕のところは内側に冷水が流れているらしく水滴がついています。◆掛かり湯のあと。ふうっとひと声。しばし脚を伸ばして手拭いを頭に。日頃の考え事を振り返ろうとしても何も思いつきません。高い天窓まで湯気がのぼっていくのを眺めるだけです。◆おや。まだ昼間の日射しに光る天窓の隅に蜘蛛の巣がかかっています。目を凝らしても主の蜘蛛は見えません。ゆらゆらと蛾の羽が一枚ゆれています。◆湯船に落ちてきたら手ぬぐいで救ってやろう。髪を洗っているときに背中に落ちたら気づかないだろうな。女風呂に舞っていけば驚くぞ。◆落ちていないかまだあるか。何度も確かめてしまいます。手拭いを持って再び横になれる湯船へ。例の羽はさっきと同じようにまだゆらゆらしていますが天窓の向こうは夕方の空になっていました。