比治山橋の上を歩いた。妙に躰が熱い。小鰯の刺身に芋焼酎。生姜を盛って数匹まとめて喰う。さっとひろがる脂と焼酎が混ざり合う。けっこう飲んだのかもしれない。◆「あの牡蠣船、船ごと買い取って喰い続けようか。」二人の笑い声が川面を滑る。◆十年たってもこうして笑っていような。四歳上の男が空を見る。年下は「本当に」と風に言う。十年たってもこうして。橋を渡りきったとき年上が振り返りながらもう一度言った。◆最終の新幹線まで駅の上で牡蠣を食おう。年上は元気だ。生で六つと浜焼き四つと酒蒸しをひと皿。もちろん賀茂鶴の吟醸。◆ここの牡蠣は白い。海水で洗われているからだと女将は言う。殻が黒いからそう見えるだけだと客は言う。そんなことより土手鍋も食おうと年上が言う。◆最終のホーム。缶ビールを振り回しながら歩く。焼き汁を飲もうとしたとき殻で切った唇が痛い。来年もこうして。年下の僕は少し大きな声で年上に言った。