心づくし/達富 洋二

客人が来る。のんびりと季節の美味いものを喰わせろというのが氏の思惑だ。この便りは毎年私を困らせる。うだるような暑さの頃もあれば、桜の頃もある。◆氏は私と同じで西洋料理が得意でない。和を好む粋な奴である。俄然、私は張り切ってしまう。◆戻り鰹は七条で買おう。生姜は下の森の市場にいいものが置いてある。素焼きにする賀茂茄子は朝積みのものを畑で。花鰹節は錦で買うのが一番。豆腐は御前通りまで自転車を走らせよう。◆はじめはエビスを一杯、その後は上越村上の杜氏の大吟醸。器は織部唐津だ。◆お膳は天神さんの縁日で手に入れた昭和初期のものを使おう。座布団はあてず、ひんやりした琉球畳の上に胡座をかかせよう。そうそう箸だ。先日、朽木村で手に入れた竹のものが適度に重くて使い勝手がいい。私がひねった箸置きには吾亦紅を一花さしておこう。凛とした白いお月さんが見えるようカーテンは開けておく。◆いつものことだ。氏が来るまでに私はすっかり秋に酔う。こんな世話はちっとも嫌じゃない。