悪友/達富 洋二

新任の頃。僕の隣に座っていた三〇代の男性は周囲から伝書鳩といわれていた。夕方の誘いに一切応じず家と職場を往復していたからだ。◆彼の名札の表裏を見れば時計を見なくても八時十五分と五時十五分が分かるとまで言われていた。当の本人は気にしていない。◆朝の地下鉄で一緒になったとき今夜のラーメンを誘ってみた。うれしいことゆうてくれるなあ。来月の第二金曜に行こう。◆四週間後の金曜日の五時二〇分。僕たちは最初で最後の晩餐に向かった。お勘定を済ませた三分後。二人は地下鉄のホームに立った。彼は一秒も休まずしゃべり続けた。職員室の彼ではない。時計を見ながら機関銃のようにしゃべり続け大国町で降りていった。◆彼がいなくなった御堂筋線は妙に静まりかえり僕は悪いことをしてしまったような気分になった。◆僕は糸の切れた凧と言われていた。出勤札のない職場に長くいたからだと説明していた。転職を機に今はタイムカードを持たされている。一ヶ月の勤務状況はきわめて優秀な伝書鳩だ。周りに悪友がいないからだと僕は説明している。