春を待つ季節/達富 洋二

鵜方の駅から古いバスに揺られて小一時間。三重県大王崎波切。風のやまない小さな漁村です。◆白い灯台に続く道に積み重なるようにして建つこの村の家の屋根には網が掛けてあります。おもしの石が潮風にみがかれ厳しさを映しています。◆細い階段でつながるこの村は、人の心を砕き、絵描きにとって惹かれる処です。にせものの僕は海と光の色より、波の音を聴きながらの鰹茶漬けと地の酒です。◆丼からはみ出すように盛りつけられた鰹はどんな赤より美味しそうです。丼の蓋にたまりと生姜。漬かった鰹は錆色。◆まずは二合。散らかった生姜を集めて熱燗を二合。◆そして茶漬け。蓋のたまりを丼にかけ、新しい生姜をのせます。ストーブにかかったやかんから熱いお茶をたっぷりかけると魚が丸く踊り出します。◆石油ストーブの匂いの中で熱い鰹をずずっとすすります。遠くに波が岩を打ちます。昼からもパレットを持つ気にはなれません。

2004年1月1日 | カテゴリー :