月影/達富 洋二

上手くもないのに雪山を滑ってきました。何度もひっくり返されてほとんどむち打ちの状態です。◆最近はナイター設備のある処が多くなりました。闇に光る斜面を滑るのも楽しいですが暗い雪山は眺めるだけでもいいものです。◆その山は六時を過ぎればもう真っ暗。日本海のお鍋といいお湯のせいで夕食の地酒に思いのほか酔ってしまいました。◆酔い覚ましにゲレンデを歩きました。伏し待ちの月が出てきます。歩くと凍りはじめた雪を割る音が響きます。風がないので思ったより寒くありません。◆目が慣れてくると辺りが明るく見えてきました。白い月が照らす雪がキラキラと宝石のようです。昼間は私を投げ飛ばした山の斜面には音もありません。◆月の前を薄い雲が流れると影が山を滑ります。さっきまで此処にあった影が雪のでこぼこを進んでもうリフトの隅です。きつねが隠れん坊をしているみたいです。◆「かた雪かんこ。しみ雪しんこ…。」ちょっとだけ大きな声で賢治の童話。痛い首筋を雪で冷やしながら寄り道して宿に戻りました