水面/達富 洋二

田植えの帰りに蛙を連れてきた。緑が六匹と茶色が二匹。◆帰りの車の中。疲れて寝ている二人の息子がバックミラーに映る。◆その向こうでグワッと声がする。やつは緑か茶色か。◆特別に飼う用意をしていたわけではない。息子たちは相談して川魚とザリガニのいる水槽に八匹を浮かべた。四本の脚をだらりとさせてポンプからの波に身を任せている姿はすでに水槽の住人になりきっている。◆疲れるだろうと下の息子が今年も小枝を一本浮かべた。兄は数本を輪ゴムで束ねて束ねて入れた。風呂上がりに見るとどちらの上にも一列に座っている。◆翌朝。ザリガニの隠れ家の前に白い肉のかたまりが沈んでいた。確かに茶色が一匹しかいない。溺れたのか滑り落ちたのかやられたのか。一匹になった茶色はさほど悲しんでいるようではない。◆夜になってもポンプの規則正しい音がするだけだ。バックミラーの中で跳ねたあの声はもう聞こえない。