現在の現在/達富 洋二

友が病にある。あの高笑いは以前ほどに響かない。会議中に配られた三角のサンドイッチを食べきることができない。「半分食べてくれるか」の声がかすれている。店ごと飲もう。飲み倒そうと声を上げていたのはそんなに昔じゃないのに。◆再発。病院に向かう。部屋に入る。僕が声をかける前に「元気にしてんのん?」のことば。水しか飲めなくなったのに人を気遣うのは忘れない。一緒にお茶でも飲もうと言ったって冷蔵庫まで手が届かないじゃない。ゆるめられたペットボトルのふたをふうと開ける。口に含みきれなかった水が顎まで濡らしているに拭こうとさえしない。◆寝間着の袖口が大きく開いているのは手首さえもが痩せたから。数年前にショットバーの階段から転げ落ちた時にできた二の腕の傷まで小さくなったように見える。◆帰り際に見せてくれた丸いめがねの向こうのキラリとしたいたずら小僧の笑みを僕は忘れない。忘れられない。