祇園豆腐/達富 洋二

小春日和の祇園円山の午後。錦市場で買った揚げたての天ぷらを下げて遅い昼を食べていた先週の水曜日。◆初老の夫婦が祇園豆腐は何処で喰わせるのかと聞いてきた。手についた油を舐めながらふんふんと詳しく聞いた。豆腐なら南禅寺。勘違いしているに違いないと思い奥丹と順正を教えようとしたとき奥方が田楽で名高い店だと付け足した。◆南禅寺の店も田楽は喰わせるが売りは湯豆腐。違うようだ。近くの古い店の大将に尋ねると田楽は昔の二軒茶屋で喰わせたとのこと。◆祇園の二軒茶屋。なるほど。「ひいふうみいよう」の四方の景色だ。

ひいふうみいよう
四方の景色を初春と眺めて
梅に鶯ほほうほけきょとさえずる
あすは祇園の二軒茶屋で琴や三味線
囃してんてん手まり歌
歌の中山…

どの辺りにあったのか。おやじの話では中村屋と藤屋という二軒の茶屋は清閑寺から清水さんに至る道につながる「歌の中山」と呼ばれるところにあったらしい。◆夫婦に歌を聴かせたがどうだっただろう。ちょごん ごんごん/ちょろく ろくろくと口ずさんで行かれたところを見ると口に田楽は入らなかったが思いのほか歌は気に入られたのかも知れない。