秋田路/達富 洋二

はらこわっぱめしを下げて「こまち」に乗り込んだ。新幹線は青いものだと思っていたのにこいつは桃色だ。東北美人だ。発車までのしばしの時間。◆鮭の親と子。鮭の身とイクラを醤油で漬け込んだものを炊き立ての秋田小町の上にばらまいた弁当。へぎの蓋をあける。いぶりがっこのにおいが車内に漂う。いぶりがっこと。駅までのタクシーの中で聞いた話ではいろり火で燻した焚き木干したくあんのこと。秋大根を天井に吊り下げて薫製にする。楢や桜の煙が大根をきつね色にするという。水分がなくなりすっかりと煙がしみこんだ大根を米糠で漬け込むらしい。◆舞茸を浅く焼いたもの。菊を薄く漬けたもの。金時芋をじっくり煮たもの。どれもがひとつずつ美味しい。全部がひとつとなって秋田を作る。◆後ろ向きに動く新幹線の中で舌鼓。夕べ酒屋でもらった山廃「雪の茅舎」小瓶をちびりとやりながら。秋田がゆっくりと遠くなる。秋田路が僕をゆったりつれて動く。

2009年6月17日 | カテゴリー :