花散らす雨/達富洋二

そういえば数日降り続いた雨はいつの間にかやんでいる。目覚まし時計がなり止まないうちにもう子どもは柴犬の「かぐや」を散歩につれていってしまった。静かな朝の始まりだ。◆ウッドテラスの向こうの赤い車に積もった黄砂も数日の雨にすっかり洗い流されたのだろう。久しぶりに光沢を取り戻した車体にはねかえされた朝の日差しが花水木を照らしている。◆今年の春は短かった。駆けていった。馬酔木も白木蓮も山吹も見ていない。桜だっていくつの夜を飾っただろうか。いま咲き誇ったように空を向いている花水木だってこの雨を憎らしく思っているに違いない。もっとながく花を見せたかっただろう。◆花の季節は短いからこそいいのかもしれない。さりげない美しさをそれぞれに届けるにはそれほどの時間はいらないのかもしれない。◆かぐやが桃色の花弁をくわえながら帰ってきた。春先の雨上がりにあったひとつの美しさを彼女も残しておきたいのかもしれない。

2009年4月29日 | カテゴリー :