蜜柑の匂いと秋の空/達富 洋二

大きな大きな青空の下の運動会でした。透きとおるような空気の中に歓声が響いていました。◆くじら雲が泳いでくればもっといいのにと、途中何度か子どもたちと見上げましたが、どこまでも青い空が続いているだけでした。◆競り合う得点の発表を見ては深いため息。そっと自分たちの競技の作戦。昨年の思い出話。そして今日のお弁当のデザートの予想。応援中のなんでもないやりとりも運動会の楽しみのひとつです。◆靴のひもを何度も何度も結びなおしている子どもの姿はなぜか凛々しく声を掛けることもためらいます。椅子の下に隠してあるどろ団子のできばえはもしかするとかけっこの一等賞よりも自慢かもしれません。◆金木犀の匂いが鼻をくすぐります。近隣の庭から迷い込んだ萩の葉っぱが風に舞っています。子どもたちのお弁当に添えられたまだ黄色くならない蜜柑は運動会をよりいっそうわくわくさせます。◆捨てずにかためて置いてあるまだ青くてかたい皮を見ていると、手折ってそっと匂いをかいでみたくなりました。