読経/達富 洋二

ぽくぽくと木魚をたたく坊さんの頭を見ていると鳥皮の塩焼きを思い出した。ぶつぶつした肌に蝋燭の光があたっているところなどは脂を落とす瞬間と重なる。◆難しい漢字の並んだ経典を見る気にはならない。亡き人を思い出すと涙が止まらない。しばし天井や欄間などの吟味。仏壇の隅のじいさんやばあさんの写真には妙な貫禄がある。流れた時間の長さゆえの風格なのかもしれない。◆なぜ鳥皮などに見えたのだろう。線香の煙が漂っていく方向を確かめながら鳥皮を連想した道筋をさかのぼってみる。◆亡き伯父とはよく話をした。こたつに入りながら命の話をした。池で釣りながら明日の日本の話をした。畑で大根をひきながら酒の肴の話をした。鯛を三枚におろしながら悔しい思い出話をした。◆同じ間隔のはずの木魚の音が妙に乱れてきた。どうした坊さん。ふと見ると孫娘が坊主頭をぴたぴたと叩いている。坊さん。読経をやめることもできないし両手はぽくぽくとちーんでふさがっている。◆これは見もの。じっと耐えている汗ばんだ坊主頭はまさに焼き上がり寸前の鳥皮だ。