道草/達富 洋二

早めの昼。日曜日によく行く店はまだ開いていない。大将が玄関に水を打って開店の準備中だ。◆金閣寺前なら観光客相手に何かあると思ったが喫茶店みたいなところばかりしかない。できればにしんそばをと思いもう少し歩くことにした。◆西大路から北大路にかかる頃いい匂いがしてきた。紛れもなくそばのだしの匂いだ。暖簾も出ている。小料理屋。入口の品書きに値段はない。昼からのにしんそばにそれほど出すわけにはいかない。もう少し歩くことにした。きょうは昼抜きになるかもしれないな。◆横断歩道の先は花屋。こんなに春の花が咲き乱れているとは思ってもいなかった。チューリップの鉢植えが今にも咲きそうだ。ラナンキュラスはもう溢れている。サクラソウが揺れているのは蜂が踊るから。◆下げて歩くのは少し照れるが一鉢連れて帰ることにした。トパーズのフリージア。一年前の春の日射しを思い出す。何だか新しい一日になったような気分だ。にしんそばが化けた花を眺めながら道を北に折れた。春先の道草はゆっくりとおだやかに時間が過ぎていく。