釣れずともよし/達富 洋二

賀茂川の今出川にかかる橋の少し上流の左手に小さな淀みがある。草間の小さな水たまりのようなところだ。◆夏と言わず秋と言わず此処に立ち寄れば魚を見る。団子の粉を練ったものを餌にして竿を持つのも楽しみだ。釣れても釣れなくてもいい釣りは気楽でいい。◆春先の小魚はさかんに団子に寄って来る。夏の夕暮れ、忙しそうな彼らは私の糸になど見向きもしない。秋の朝は人なつっこく挨拶をしてくれる。◆少し早い今年の冬。日曜日の朝に土手に腰をおろした。釣れなくてもいいんだからと言いながらも見える魚に少しばかり意地になってしまった。あの赤い石の横に落とすとすっとでかい奴が寄ってくる。そこで竿を右ななめに合わせる。◆背中の模様まで覚えてしまいそうだ。流れてくる紅い葉っぱを見ている間に餌がなくなっている。どうにか一匹。連れて帰るにはいささか恥ずかしい数。◆戻すかどうか考えながら竿をおさめていると辺りはすっかり暗い。出町の商店街で蒲焼きでも買って帰ろうと思いつつも、群青色の川面がもう少し気になる。