錦市場/達富 洋二

寒中見舞いに絵でも添えようと思い材料探しに出かけた。年の瀬の錦は愛嬌のある冬の野菜がたくさん並んでいる。◆壬生菜からは水がしたたりそうだ。やまの芋もえび芋は無愛想だけど人情がある。堀川ごぼうは葉書には長すぎる。くわいの色は手強そうだ。◆細い道でちょいと足元を見ると魚屋の棚の下の桶に鮒とどじょうが泳いでいる。正月料理とは縁がないのか見向く人もいない。◆しばらく眺めていたがどいつも野菜に負けないくらい愛らしい。といって連れて帰ったところで死なせてしまうだけだ。正月早々殺生もいけない。暖かくなったらなと声を掛けて再び野菜を探しに東へと向かった。◆穴子の白焼きが光ってる。餅屋の湯気に頬が熱い。卵屋は行列で内は見えないが焦げた匂いが絶妙だ。樽のすぐきはそれだけで粋だ。いつのまにか持てないほどの荷物。◆一つだけでも京野菜をと思い寺町で折り返した。行きしなに見つけた八百屋で勘定をしていると向かいに乾物屋。麩が裸電球に照らされている。ふとさっきの鮒の桶に落としてみたくなった。