電信柱のある風景/達富 洋二

研究室に入るとまず窓を開けます。これは旅先でも同じ。宿に着くとどういうわけかカーテンを開けて外を眺めてしまいます。何を確かめているわけでもありませんがそうしてしまっています。◆この部屋に引っ越して来たときもまずそうしました。向こうには日ごと色を変える比叡山がすっと立っています。なかなかの眺めです。◆しかし目の前には電信柱。迫ってくるように立ち並んでいるのが目障りです。これさえなければ山が真正面なのに。気に入ったはずの景色なのに急に冷めてしまい西側の研究室にすればよかったかなと思いはじめました。◆その思いは日ごと増えるかというとそうではありません。不思議なものです。見ようとしなければ見なくてすむようになったのです。写真では無理な話です。そうなるとこの景色が妙に気に入ってきました。◆ゆうべはちょっと遅くまで部屋にいました。帰り支度をすませ暗い窓に近寄るとブラインドの隙間から五本の電信柱がドッテテドッテテと手をつないで踊っているのが見えました。