青い電車とカラスウリ/達富 洋二

列車の回転操車場の前に大山そばの看板を上げた店がある。吾左衛門弁当というのが名物らしい。◆日本海の荒波で漁れる生きの良い鯖で作った棒寿司と伯耆富士大山山麓で採れる山菜を使ったおこわに赤貝にあまさぎなど山陰の山海の幸を盛り合わせた弁当だ。少々値ははるが秋の胃袋には魅力的すぎる。そいつとかけそばを注文した。◆操車場でゆっくり回転しているのはEF64。二十年ほど前は強い力で日本中の坂道を走っていた青い電車だ。白く汚れた窓ガラスが秋の光に照らされみかん色に見える。◆鯖寿司をひとつ頬張り色の濃い蕎麦のつゆを飲む。青い脂がゆっくりとける。栗と筍の入ったおこわを多めに頬張りつゆを飲む。もち米がさらりと動き出す。蕎麦をずずずっとひとくち。◆冷たくはないがやはり秋のはじめよりはかたい山風が吹いている。机の上に散らかっている七味唐辛子がすっと動いた。◆最後の鯖寿司を口に入れぬるくなった伯耆茶をすすった。青い電車の横の枯木に巻き付いたカラスウリがきらきらっと揺れた。

2003年11月26日 | カテゴリー :