飛行機雲/達富 洋二

秋のいい日に薬師寺を歩きました。昼前の人の少ない時間だったので高い空をゆく飛行機の音まで聞こえてきそうです。◆順路から外れて腰をおろしました。回廊のひさしと東塔が重なって見えます。この塔は六重に見えますが小さな屋根は裳階というもので実は三重の塔。あんまりのんびりしている僕を見て後ろからお寺の人が教えてくれました。◆長々と説明をされても困るなと思い腰を上げようとすると邪魔をしましたと向こうに行ってしまわれました。◆よくは見えませんが東塔の水煙の透かし彫りのことは中学で習ったことがあります。笛を吹いた飛天が二十四人。笛を奏でているはずです。大空にみほとけを讃える姿が何とか見えそうです。◆雨の日はどんなふうに見えるのだろうと思いながら境内を出ようとすると「さようなら」と聞き覚えのある声。さきほどのおばさん。さようならと返したとき白鳳の祈りの向こうに飛行機雲がすすすうっとのびていきました。

2004年11月17日 | カテゴリー :