鰊のたいたん/達富 洋二

室町通りの小さなおそば屋さんに入りました。夜はお酒もいけるようなつくりになっていて少しだけお酒をいただくことにしました。◆壁には筆で書かれたお品書きが貼られています。板わさ、じゃこおろし、湯豆腐、わさびみそ。何か懐かしいお店です。立山を一杯と鰊のたいたんをもらうことにしました。鰊は母が好きです。◆子どもの頃は外食なんて年に数えるほどしかありませんでした。お墓参りの帰りか大丸さんの帰りくらいだったような気がします。◆家では和食ばかりですからスパゲティーやエビフライがとっても贅沢なもののように見えました。紙のナプキンや食後のジュースのストローは使わずに持って帰った覚えがあります。◆家でも食べられるもんをたのまんとき。父親の言葉をよそに母はいつも鰊そばです。お品書きを端から端まで見てはいるのですが結局は鰊そばです。◆そんな思い出は一つ思い出すといくらでも出てきます。小骨を選びながら次の日曜日にはこの店に母を連れて来ようと思いました。