達富洋二(たつとみ・ようじ)
長崎暮らし、文学博士および教育学修士。九州各県の教室をたずね続けている旅がらす。
離島(長崎県五島列島)、都市部(大阪市)、国立大学附属学校(大阪教育大学附属小学校・京都教育大学附属小中学校)など、約25年間の小中学校での実践と私立大学および国立大学で勤務。
専門は、国語科授業論。
国語科教科書(光村図書)編集委員。著書『ここからはじまる国語教室』(ひつじ書房 2023)。
現在は、九州各県の小学校や中学校に出かけて国語科の授業を行い、子どもにとって学びがいのある単元学習とはどのようなものか、子どもは単元でどのように《問い》を立て、解決の向かって学んでいるか、教師は子どもの学びにどのようにかかわり、てびきするのがよいかの研究を続けている。
『九州 教室の声に学ぶ会』を主宰し、九州各地の研究会を支援している。
小学生の頃は野球小僧。2番バッターのセカンドで地域の少年野球チームの主将。大洋ホエールズのファン。中学生になり、普段は野球を愛しながらも、休日は町と町をつなぐ国鉄のやさしさに心を奪われる。大学受験までは古典が得意で夜空の星に心を馳せる理系少年(だったはず)。高校生の頃に吉田拓郎さんの影響を受けフォーク少年になる。庄司薫や柴田翔を読み、文学に憧れる。紆余曲折しながらも大学生。自転車による日本一周旅行をしながら「地元の人と話すこと」に浸り、全国のユースホステルに400泊以上し、ホステラーの中ではちょっと有名になる。学問よりも旅を優先したため、大学での成績は芳しくなかったが、ことばの学びと美術系の授業の出席数は悪くなかったと思う。この頃から、国語教師の野名龍二先生や清原久元先生、大村はま先生に師事し、指導を受ける。次の写真は大村はま先生と。もう一枚は清原久元先生と岩崎京子先生と。
向田邦子の文体を真似し、野田秀樹の発想に溺れ、立原正秋の美意識に痺れ、大津皇子の生まれ変わりだったらいいなあと思い続けている。
教師生活は長崎県五島列島の小さな小学校から始まる。教会の近くの教員住宅に住み、かけがえのない島の生命と出会う。声が響き合う教室で教えることの尊さに心がふるえたのを今でも覚えている。紺碧の海、馬の背のような狭い土地、荒ぶる台風、飛び魚を焼く匂い、手延べうどんが揺れる音、それらの暮らしの中にはいつも生活のことばがあった。そのことばは生きている彼らそのものでもあった。人と暮らしをひらく話しことばの充実はわたしの生涯のテーマとなった。その島に棲む五島うどんと塩づくりの名人の犬塚虎夫は無二の親友であり悪友。
その後、大阪市立小学校に赴任。日本国語教育学会編の「ことばの学び手を育てる国語単元学習の新展開」の全実践を自分でもやってみた。単元学習というものが何となく分かり、よりいっそう興味をもつことになる。大村はま実践に学び、子どもの力を小刻みにしない授業に魅了され、国語科単元学習にとりつかれてしまう。また、DOの会の「行為の美術」もに憧れ、造形遊びの題材づくりに夢中になる。教科書にはない図画工作科の創作単元「奇怪な機械を作ろう」と国語科の単元「奇怪な機械の説明書」とを一つにした「想像したことを自分の方法で表そう」という単元に夢中になった教え子の一人は、ロボット研究で工学博士の学位を取得。現在もロボットにとりつかれているらしい。
大阪教育大学附属天王寺小学校、京都教育大学附属京都小中学校在任中は、もっぱら「明日、役に立たない研究」に明け暮れ、学会発表でも厳しい指導が続く。「明日は役に立たないけど、明後日はきっと役に立つ研究」をモットーに続けてきた「単元学習」「《問い》を立てることからはじめる学び」「行為の美術」「教室談話における教師の授業コミュニケーション力の研究」をまとめ、ようやく文学博士の学位を取得。
神さまに導かれ、五島列島で自分を見つめ、大津皇子が眠る奈良県當麻町の二上山が見える場所に居を構えた。二人の生命を授かり、その後、京都の北野天満宮の杜からの風が心地いい処に転居。
大学教員になってからは、比叡山の見える研究室で多くの学生と夢を語り合い、彼らの夢を叶えるためのてびきに浸った。指月会という同窓会をつくり、卒業以降も現職教員の集まり(現在は「教室の声に学ぶ会」として各地で開催)として研究を続けたり、教材の舞台を旅したりしている。写真は「ごんぎつね」にまつわる愛知県半田を訪れたときのもの。
これまで京都の達富研究室で学び浸ったゼミ生111人。今でも「指月会」という研究会というか同窓会でつながっている。自慢でもありたからものでもある。
趣味はアウトドアと高校野球観戦。銭湯めぐりと手ぬぐい集め。油彩画を描くことやエッセイを綴ることもちょっとだけ。特技は魚をさばくことと授業のしかけづくりを少々。たからものはこれまで出会った人と、ちょっと自惚れて言うなら、しなやかな発想と行動力。曲がったことが嫌いな性格のためふらっと旅に出ることもしばしば。旅先でお月さまを風に語りかけて自分を取り戻す。
15年ほど前から長崎県月待浦に「PENNY LANE」と名付けた居を構え、悠々と海を航る白い雲を眺め、風に吹かれながら暮らしている。
星海、月海と名づけた二匹の柴犬と朝の散歩。
休みの日は、明るい内は樫の木で薪作り。夕方はシーカヤックで魚と勝負をし、活造りや一夜干しを楽しむ。冬は薪ストーブで暖をとり、夏はハンモックで潮風に吹かれている。自宅のハーブ園で育てたミントの風呂に入り、お月さんを眺めながら九州の美味い焼酎に舌つづみ。晴耕雨読、悠々自適。まさに自然の中で生きている。
とにかく人が好き。
そして教室が好き。まだまだ授業に浸りたい。
きょうも、教室巡礼。旅ぐらし。