今夜,せがれから数枚の写真が届いた。自分の誕生日の思い出に旅をしているらしい。
僕が30歳の頃から通っている馴染みのおでん屋。夜更けまで語り通した大将は数年前に先に逝ってしまった。以来,数えるほどしか行っていないけれど,今でもその出汁の香りと日榮の熱燗の味は忘れることはない。
車麩,日榮,はんぺん,どて焼き,日榮,
金時草,ばい貝,日榮,
日榮。
同じものを同じように同じ順番で並べているせがれ。大将が生きていたらきっと二人で僕のことを肴に飲んでいたに違いない。
僕が博士論文をまとめることができたのは多くの人に支えてもらったからだけど,この店の大将がいなかったら,と思うと申し訳ない気持ちと誇らしい気持ちが一緒にやってくる。大将の注いでくれる日榮に誓った根性がなければ完成には至らなかっただろう。
学位授与式の夜。自分のことのように喜んで僕の学位記を撫でてくれた大将の姿が今も鮮やかだ。
せがれも誕生日にいい店を選んだもんだ。たくさんの人につながる男になってほしい。