三十年前の魚屋/達富 洋二

岡崎での古書市。子どもたちはアトムの初版本に目をとめ、家内は長崎文化史を手に取り、私は衣笠子ども風土記を見つけました。◆昭和四十八年の発行ですから私が小学校に通っていた頃です。なぜ運動場の真ん中に大きなくすのきがあるのか分かりました。体育館の「創造」という大きな墨書はたいへんな文化財らしいです。そんなことが子どもたちの作文に書かれています。その書き手は間違いなく僕の悪友たちばかりです。◆あの頃天神さんの梅の林を荒らしたあいつ。お土居のてっぺんから小便したのはあいつ。市電の敷石をくすねたのはこの僕。風土記のすきまに三十年前がよみがえります。◆帰り道。御所の砂利道を自転車で走ります。子どもたちは連休最終日は衣笠探検をしようと計画中です。家内は夕飯は魚でどうかと声を上げています。それなら日本酒に鱧。三十年前から炭火が自慢の魚屋を案内しようと僕はペダルを踏みました。今出川通りが西日に蜜柑色になっています。