三度目の夏/達富 洋二

親父が逝ってから二年。いない日々に慣れることはありませんが写真と話せるようにはなりました。◆母は週に一度お寺の掃除に行っています。もう三度目の夏です。母が何を見ているのか分かりません。何を確かめているのかも知りません。ただ膝を折って笹と松の葉を拾い続けています。◆三回忌は大祥忌というそうです。祥という字はいい字です。それだけで父が苦しんでいないような気がします。◆静かなお経が続きます。いびつなガラスからは夏の日差し。梅雨の合間の青空には涼しい風。ざざざと笹の葉がすれる音。一面の苔の上を体中で歩く黒い蟻。◆静かにお経が流れます。父の弟が足を崩します。目があって互いに苦笑い。ざざざざざ。ひときわ大きな音。何枚もの笹が光の中を舞います。◆また散らかってしもた。きれいにしといたのに。お父さんに叱られるわ。母が小さく呟きました。◆かまへんやんな。僕は線香の煙の向こうの写真に少し大きな声で言ってやりました。