封筒/達富 洋二

五月人形のことを大将さんと呼んでいます。両親がそう呼んでいたからです。段飾りの大将さんは子どもの頃からの自慢でした。◆鯉のぼりや陣太鼓。柏餅やお酒。そんな飾りのいちばんてっぺんに白い髭の大将さんが座っています。両側には長い刀と弓。この刀が魅力的でした。◆金屏風の前に並べられたそれは手では触れてはいけないほどの宝物のようです。だけど一回だけでもええから手に持って刀を抜いてみたい。弓を力いっぱい引いてみたい。小学生の僕の思いは膨らみます。◆お兄ちゃんだってさわれないものを僕がさわれるはずがない。きっと叱られるに決まってる。触れないままの五月がいくつも過ぎていきました。◆今年こそはと決めた五年生。大将さんを飾るところから手伝いました。これだったら堂々と刀を操れるはず。矢を飛ばせるはず。そんな緊張の横でお父さんはひょいと刀を抜いてペーパーナイフがわりに封筒を開けています。◆以来僕は封筒を開けると五月のかおりがするのです。