小僧の神様/達富 洋二

暮れに薬局のくじで当てた入浴剤「全国湯巡り」。白くにごった湯もあれば鉛色のいかにもそれらしいものもある。◆上の息子は北海道びいきで登別。下はかっこいいからと龍神。家内は郷里を懐かしみ雲仙。それぞれに楽しんだ四日目。わたしは城崎で昼の風呂。◆川沿いに集まる集落。点在する旅館。ひと昔前の温泉街とはまさしくこんな感じだったのだろう。十年ほど前に訪ねた城崎の町を思い出す。城崎かあ。湯を肩にかけたりすくったりしながら筋肉質の志賀直哉の写真を思い出す。清兵衛と瓢箪に小僧の神様。繊細で目に浮かぶような描写。◆家内に古い文庫本を持って来させてしばし。なんとも贅沢な風呂。からだも心も温まったのは温泉の効能ばかりではない。◆「よし。夜は寿司屋に行こう。」登別の日は毛ガニ。雲仙の日は島原牛と続いただけに今夜は日本海の魚と予想していた家内はもう着替えをすませている。小僧二人はきょとんとしてる。◆四人分出してくれる神様はいないだろうかと考えながら風呂を出る。食費のかさむ温泉旅行をもらったものだと嘆きつつ甘鯛の味を思い浮かべた晦日だった。