彩りの川をすすむ/達富 洋二

西陣に育った。機織りの紋紙に付ける金串と縦糸をくるむ紙でよく船をつくった。◆湿り気よけに薄く油を引いたその紙は船の材料にはもってこいだ。真ん中に串を立てて帆をつける。あけた穴はいつも大きくなってしまい串がぐらぐらする。といってセロテープは水に弱い。◆仏壇から拝借したろうそくを串に落とす。だんだんと穴がうまり柱がしっかりする。クレヨンを塗っておくとさらに素敵なできばえだ。◆大きな船を両手で抱え紙屋川に行く。きょうは橋をいくつ進んでくれるかな。五つくらいは行ってくれるだろう。小さな滝がある四つめの橋はいつもひっくり返される。難所だ。◆川沿いには染屋がある。日によって違う色の水が川を染める。様々な色の川面を進む船はたまらなくかっこいい。橋の上から励ましながら船を追いかける。紅い水が来るぞ。逃げろ逃げろ。そうだ藍色のところが安全だ。行け。◆船の救出に使う小石を握りしめたままの帰り道は彩りの中をじゃぶじゃぶ進む。いつのまにかついた染料の飛沫のせいで僕のほっぺも鼻もカラフルだ。