手持ちのことば/達富 洋二

北大路のバスターミナルで傘をさそうかどうか迷っていたときのことです。おばあちゃんと小さな女の子が何やら言っていました。◆ウチノシャンワ。ハイ。オバアチャンノパラパラモアルン。ハイハイ。何のことか分かりません。光景を見ているとこんな会話なのかなと思います。◆わたしの傘は(ありますか)。はい(ここにあります)。おばあちゃんの傘もあるのですか。はいはい(ありますよ)。シャンは子どもの傘。パラパラはおばあちゃんの傘のことでしょうか。◆「シャン」と「パラパラ」。調べてみてもありません。京都方言ではないようです。その子どもと家族だけのことばなんでしょう。◆八木重吉に「金魚」という詩があります。桃子は/金魚のことを/「ちんとん」という/ほんものの金魚より/もっと金魚らしくいう◆川崎洋は「子どもはおとなのようにことばにつかわれるということがなく、手持ちのことばを生き生きとつかいます」と言っています。