春野の生姜/達富 洋二

土産に生姜をもらった。まだ掘ったばかりのみずみずしいものだ。少し太めの指をくねらせからめたような形をしている。土をつかみながらここまで大きくなったのだろう。◆生姜とはショウガの地下茎のこと。太陽に当たることなく大きくなる。色白でしっかりした繊維がたくましい。太陽の恵みは葉から送られてくるのだろうがこの地下茎を喰っているときに地上に伸び出た葉や茎のことなど想像したことはない。◆子どもの頃は生姜とは紅いものだと思っていた。そんな話をしながらの晩酌。新生姜を細めの短冊に切り塩をふりかける。瞬間の辛さと懐かしいまろみが口に広がる。酔鯨に司牡丹がすすむ。◆この味は単に春野の恵みを凝縮しただけではない。土をおこし水を図る世話がなければできあがるものではない。曲がりくねった十本の指のどの隙間にも土のあとのひとつもない。育て上げた者だけができる愛おしみの仕事だ。暗い土中にあったはずなのに光輝く艶が幾重にもまぶしい。

2006年8月30日 | カテゴリー :