比叡おろし/達富 洋二

京都の冬にゆりかもめはよく似合う。パンの耳を持って今年も賀茂川に会いに行った。北山橋の少し上流に群れているのはいつものことだ。◆高く投げても速く投げても空中で受け取る技にしばし子ども心で楽しんだ。何を語っているのか幾重にも声が重なる。脚の色が違うのには何かわけがあるのか。私のパンは黄色の脚に取られることが多い。◆白と黒のまんまるの愛らしい瞳が私をのぞく。手元に来たときにはすでに山を見ている。故郷とは違う冬の景色に戸惑っているのだろうか。◆突然さっと身をかわして空を泳ぐ。何があったのか判らない。頂上を少し白くした比叡山からの風が翼を持ち上げたのか。モノクロームの世界にひときわ高く鳴き声が響く。◆比叡おろしに色はない。ゆりかもめの黄色がそれを少しだけ華やかにする。「この鉛色。もしくはすこし紫色を帯びたのが、これからの色彩の基調。」これは藤村の千曲川のスケッチの冬。そういえば以前見た小諸海野宿を流れる千曲川に舞う冬鳥の脚も黄色かった。