浜木綿ゆれる/達富 洋二

八幡浜から伊方まで国道が続く。約四〇キロ。大きな風車のふもとに蜜柑の木が続く。右にも左にも海が見える。瀬戸内海と宇和の海の色はまったく違う。◆予約のとき民宿の女将さんは台風だったら電話をしますからお越しにならないでくださいと言って電話を切った。確かに強い風が来れば岬ごと吹き飛ばされそうだ。◆岬の灯台までは車を降りてから小一時間の距離だ。浜木綿の群れがゆれる。その向こうに豊後水道が段々畑のように色を変えて横たわっている。潮が駆け引きをしている下に鯖や鰺の群れが身を引き締めて泳いでいるに違いない。◆セキアジと呼ばれる魚がここではハナアジと呼ばれる。岬鰺と書く。岬の先。つまり鼻のことだ。◆夕膳を賑わわせたのは一尺を超える岬鰺だ。すこし甘めのたまりに切り身をまとめてつけて頬張る。目を閉じて噛む。夕方の風景が見える。逆光の灯台の前で花弁を揺らしている浜木綿の群れが潮の段々にとけ込む。右に左にざざざとゆれる。

2006年8月23日 | カテゴリー :