親父が逝って一年になる。昨年の今頃はと思う。最後の風呂に入れてやった。最後のひげを剃ってやった。髪を洗ってやった。最後の…。◆僕がやりたいと言ってはじめた少年野球。親父はよくキャッチボールの相手になってくれた。地元ことばだろうか。親父はボールをほうるからキャッチボールのことを「ほり」と言った。◆土曜の夕方は親父を独占できるほりの時間だった。路地裏にボールの音が響く。何も言わず床几に座って顔を右に左に動かす向かいのじいさん。取り損ねるのを期待して後ろでボールを待っている年下の男の子。赤ん坊を寝かせながら親父と話すおばちゃん。僕はもくもくと全身の力を入れて速い球をほうった。◆終わってから駄菓子屋に行ってコーラを飲むのが楽しみだった。僕は小さな瓶。親父はホームサイズの瓶。大きな瓶をすっと飲む親父はかっこいい。僕はいつも追いつこうとあわてて飲んだ。◆「球はよなったな」「ほんまぁ」久しぶりに手をつないでの帰り道。路地の入り口に白いおしろい花が咲きはじめていた。